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卒業論文2015

2015年度は、以下の9本の卒業論文が提出された。

 

「カジノ法案から見る利益団体が政策決定過程に及ぼす影響」は、賛成派・反対派の双方の利益団体が、カジノ法案にどのような影響力を行使したかを分析した。反対派のアウトサイド・ロビングによる影響力に着目した部分に、新たな知見が見られる好論文である。

「教科書から見る領土問題:日露韓中の社会科教科書から」は、韓国留学中に取得した韓国語を駆使し、韓国語文献、さらにはロシアの史料も使いながら、四か国比較という難しい作業に挑戦した意欲的な論文である。各国の領土問題の視点が、教科書比較という手法であぶり出されている。

「映画に見るアメリカの戦争観の変容」は、映画から米国社会の戦争観の変化を探るというユニークな手法で分析した論文である。時代の変化による米国社会の価値観の変化がわかる。現代の米国外交を考える上でも示唆を与える。

「非武装憲法を持つコスタリカの安全保障:非武装でありえたその要因と日本との比較」は、コスタリカと日本の比較というユニークな視点から、日本の安全保障を考察し、非武装の可能性を探るユニークな論文である。日本の安全保障を考える上で、大変参考になる。

 

⑤★「日本の地方新聞社説報道から見る日本の領土問題:北方領土・竹島・尖閣諸島の比較」は、全国紙や沖縄の地方新聞のみならず、北海道や山陰地方の新聞資料も収集し、日本社会の領土問題をめぐる世論の多様さを探る力作である。

「日韓のパブリック・ディプロマシー戦略:領土問題を中心に」は、韓国留学の成果を生かして、ハングルで書かれたHP上の資料なども組み入れ、韓国のパブリック・ディプロマシーを探った論文である。韓国のパブリック・ディプロマシーについて考える上で興味深い論考といえる。

 

「沖縄の枯葉剤問題について:なぜ県が取り上げてくれないのか」は、枯葉剤問題に対する沖縄県の姿勢ついて、直接、県庁に行って取材した論文である。この論文にしかない独自の資料が光っている。

 

「アフリカにおける民族紛争解決の鍵:第三者の必要性と課題」は、アフリカの民族紛争を網羅的にスキャンし、解決の方法を探った意欲的な作品である。その手法のオリジナリティーが評価できる。

「日米韓における北朝鮮認識:映画分析を通じて」は、韓国語、日本語、英語の資料を駆使して、映画を通して日米韓の北朝鮮認識を考察するという独自の手法が注目される。日本の学生と比較しても遜色ない(それ以上?)論文となっている。

 

 

それぞれがそれぞれの研究テーマに、オリジナリティーのある手法で取り組んでおり、四年生が2年間のゼミを通して努力した片鱗が垣間見られる。優秀論文を決めるには昨年度と同様に正直非常に迷ったが、考察の分厚さで他より一歩出ている⑤の論文を最優秀論文とした。

​卒業論文2016

2016年度は、以下の6本の卒業論文が提出された。

 

「沖縄県米軍基地問題新聞報道分析:沖縄および全国紙の比較から」は、本土と沖縄との報道の差、反応の差がなぜ生じるのかという問題意識の下、全国紙と地元紙の基地問題に対する報道を比較分析した原稿用紙200枚以上に及ぶ大作である。全国紙と地元紙の「微妙な」論調の変化を指摘した点は興味深い。切り口にもオリジナリティーがあり、基地問題に新たな知見を加えている。

「西銘・大田・稲嶺・仲井眞・翁長県政における在沖米軍基地問題に関するパブリック・ディプロマシーについて」は、五つの歴代県政の米軍基地問題に関するパブリック・ディプロマシーの変遷に関して一次資料を駆使し分析した野心作である。各県政をパブリック・ディプロマシーから特徴を負った先行研究は少なく、沖縄県知事公室基地対策課の資料などを丹念に集めることによって、先行研究を超える部分を有している点が光っている。

 

「安倍政権の積極的平和主義とは何か:比較を通して」は、歴代政権の平和主義を縦軸として、国連や米国オバマ政権の平和主義を横軸とする重層的な分析から安倍外交を検討したものである。分析手法も斬新であることを評価したい、また、結論部分で述べられている「時代の風潮(流れ)の変化」は示唆的で興味深い。

 

「時代を担う日本人を育むために:国際バカロレアの有効性」は、日本・アメリカ・フィンランド・韓国・スイスの教育制度の比較と文部科学省が導入を進めている国際バカロレアの可能性について論じたものである。国際バカロレアについては、実際、現在導入している高校に赴き教員と生徒にインタビューしていることから、国際バカロレアの長所および、これを日本で導入する際の障害に対して説得力をもった考察を展開している。

 

「翁長氏と仲井真氏の自治体外交比較:訪米事業の事例を通して」は、沖縄県の自治体外交を訪米事業に焦点を合わせ、仲井眞県政と翁長県政を比較したものである。特筆できるのは、ニューヨークタイムズとワシントンポストの記事の分析を通じて、米国の対沖縄世論について分析を試みた点である。考察の部分にもう少し分厚さがあれば優秀論文にもなれえた。

 

⑥★「『費用便益』と『パワー・シフト理論』」の検証:尖閣諸島問題をめぐる日中関係の分析にむけて」は、戦争の原因についての国際政治理論である「費用便益」論と「パワー・シフト」論を取り上げ、その理論の有効性と限界性について論じたものである。筆者の「知的格闘」のプロセスが論文ににじみ出ており、それが考察の深さにもつながっている。

 

国際関係の分野のみならず、歴史学や社会学分野の研究など、それぞれ持ち味を生かした論文が提出されており、2年間のゼミを通して努力した内容が垣間見られた。

優秀論文を決めるには昨年度と同様に非常に迷ったが、理論と実証を組み合わせる難易度の高いテーマを選んだ点、考察に「知的格闘」の深さがよりにじみ出ていた点を評価し、⑥の論文を優秀論文とした。

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