卒論講評 2024年度(優秀論文)
卒業論文は8編の論文が提出された。いずれの論文も先行研究に対して新知見を加えるべく鋭意努力された好論文であった。そのため、優秀論文を選考するのに苦慮したが、下記の2点をゼミ優秀論文とした。
★「日台航空路問題:大平外相談話と宮澤発言」
この論文は、国際関係史上でも重要な事件である1972年の日中国交回復を受けて、日本と台湾の航空路線がそれにどのような影響を受けたか取り上げたものである。とくに当時の日本政治に焦点を絞り明らかにしている。具体的には、1974年の日中航空協定締結と関連して、「外交、国内政治、航空業界の関わりを踏まえつつ、日台航空路問題がどのようにして収束していったのか」について、一次史料の丹念な分析を通じて論じている。特に、日台航空路線に対して、大きな影響をもったとみられる「大平外相談話」および後任の「宮澤外相の国会での発言」が、なぜ成され、またそれがどのような影響を持ったかに着目し考察している。
ただ、この問題は外交問題でもあるため、日本国内政治のみならず、台湾よび中国側の外交政策、さらには米国外交との関連性も踏まえた国際関係史分野での多元的かつ重層的な分析が必要となってくると思われる。特に、日本外交文書からだけでなく、台湾側の一次史料や文献の分析は必要であろう。しかしながら、日本外交史料館から文書を入手し丹念に読み解き新知見を加えた点を評価したい。学部の卒論レベルを超える研究であるとして差支えないだろう。
★「台湾と日本における同性婚と政治」
「台湾と日本における同性婚にまつわる政治について比較研究を行う。「台湾は2019年5月に『司法院釈字第748号解釈施工法』が立法院で採択され、同性カップルによる婚姻登記が合法となり、アジアで初めて同性婚が認められる国となった。日本においても、地方自治体への『パートナーシップ制度』導入や、同性婚を支持する世論の拡大に伴って、国レベルでも同性婚が議論されるようになった。しかし、日本における同性婚法制化の道筋は今もなおたっていない」
上記記載で始まるこの論文は、台湾と日本政治の政治過程に注目し、なぜ同性婚に対してなぜこのような差異が生じたか、比較分析を試みた論文である。両国の立法院(国会)と政党、世論、宗教団体の活動、外圧の4つの項目に分けて日台の比較分析を行っている。
そして、結論として、以下のように考察する。
「両国の同性婚政策の違いの最も決定的な要因となったのは、(中略)政権が同性婚を支持しているか・支持していないかという点であると考える。台湾は2016年に政権交代が行われ同性婚を支持する民進党が政権を担った。一方日本では、長期政権を担っている自民党は同性婚に否定的な立場をとっている。この違いは、両国の同性愛者を巡る環境に決定的な違いをもたらしたと考えられる」
おおむねこの結論は同意できる。しかし、総統制の台湾と議員内閣制の日本という政治システム上の違いが、この問題の決定にどのような影響を及ぼしたかという点については、さらに分析を進める必要があったろう。また、論文の中では、「台湾海峡問題」という語で集約され深く言及されないままである中華人民共和国との関係性の部分は深く分析がされていない。大陸中国との「差別化」という要因が、どのように台湾の国内政治には反映されていったかについても言及してほしかった。
とはいえ、台湾留学の成果を生かし、中国語文献を使用し、日台の政治を比較した点は、十分に学部卒業論文のレベルを超えて評価できるといえる。